022838 ランダム
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アムステルダムコーヒーショップ

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トッピ【前編】

ふとしたきっかけで知り合った男性と「今度、ご飯でも食べましょう」と言うことになった。別にデートと言うわけでもないのだけれど、私もまだ23才の独身女であるからして、これをきっかけに恋が始まる可能性だって無くはない。ほのかな期待に胸躍らせ「待ち合わせはどこにしましょう?」と、電話で問えば彼が答えていわく。「〇〇駅前のベンチで本を読んでいます」…待ち合わせの夜九時きっかりに〇〇駅前に行くと、彼はベンチに座り、一人ぽつん、と、本に目を落としていた。
「あ、〇〇さん」
声をかけると彼は、驚いたように顔を上げ私を見た。
三十代半ばとのことだが、見た目は二十代後半にも見える。美男だ。思わずニコリと笑えば彼もニコリと微笑み返した。八重歯が街灯の明かりにピカリと光る。やはり美男だ。美男が言った。
「本名さん、近くに大きな公園があります。公園に行きましょう」
「へ?いきなり公園ですか?」
言ってからシマッタと思ったがもう遅い。いきなり下心モロバレである。しかし美男は気にもとめず、フワリとした足取りで、夜の公園へと歩き始めた。なにせ出会って間が無い。彼のキャラも真意も読み取れず、私は焦りつつも更に下心を膨らませ、彼の後を追った、美男はサクサクと歩く。夜風に美男のスーツがなびく。名前は思い出せないがどこかで嗅いだことのある香水の香り。 「本名さん、ここに座りましょう」
広い公園の中程、遊歩道の中の朽ちかけた木製ベンチを美男の人差し指が指し示した時、私の頭の中に浮かんだ「次に起こること」を箇条書きにするならこうだ。
【1】「好きだ」と言いながらすがり寄る美男。 困ったふりをしつつまんざらでもない私。う~んマンダム、ブロンソン。
【2】そこへ数人の男登場。「ノコノコ付いてきて馬鹿な女だな~オレらとイ~ことしようぜぃ。ヘヘヘ」「いや、イ~ことってその展開古過ぎですよ」とつっ込む間もなくボコボコに殴られ金品を奪われ姦わされる私。
【3】集団強姦男よりコワイ、北朝鮮工作員登場!「わああああ、こうやって袋詰めにされて平壌に運ばれちゃうの私!?アイゴーアイゴー……」ちずる拉致。その後喜び組入隊。マンセー。
三択苦手のはらたいらさんでなくとも【1】でお願いしたいところであるが、美男は何番にも当てはまらない言葉を言った。
「サンドイッチ食べましょう」彼はポンとベンチに腰掛け、やおらバックから500mlのウーロン茶と何処かのテイクアウトのサンドイッチを取り出したのであった。なるほどちょっとしたピクニック気分……ってオイオイこの闇の中でか?
「はぁ、じゃあ一ついただきます。アレレ!?」
「あ、それはサンドイッチじゃなくてチーズですよ」
サンドイッチと三角チーズを間違える程にあたりは暗いのである。まったくピクニック気分にはならない。
暗闇の中でモサモサとサンドイッチを食べながら、彼と語った。彼は「本名さんは公園でサンドイッチを食べているイメージ」を抱いているのだそうな。それにしてももう少し時と場合を考えてはどうか、とも思うのだが、美男に言われると悪い気はしない。出会いは妙でもこれはもしや恋の始まり?てな期待が再び膨らむのも束の間、彼はポツリとこう言った。


「サンドイッチなんて一緒に食べてくれないもの……うちの妻は」

妻?……既婚者だっ!!
メンドーなことになるのはゴメンであるからして
私は慌てふためき、「急用」を唐突に思い出し、夜の公園を逃げ出したのであった。
果たして彼が、不倫を望んでいたのかどうかは知る由もないが、翌日、既婚者から電話があった。
「よかったらまたどこかに行きませんか」
「は~、いや~、どこ行きますかね」
「私、ぜひ本名さんと見に行きたいものがあるんです」
「はあ、何ですか」
「本名さん、今度一緒に」
「はあ」
「今度一緒に、襟裳岬の朝焼けを見にいきませんか?」
誰に言っても「そりゃ類は友を呼ぶってやつだ」と一言で済まされてしまうのだが、私は、何というか、トッピな男性によく出会う。この続きは次回!カミングスーン!



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